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2011年度から現在までにも、すでに小学校では5・6年生を対象に「外国語活動」としての英語教育が必修化されていますが、2020年度以降には、小学校で英語教育義務化を完全実施することが決定されています。
そしてこれに先駆け、2018年度からは、この「外国語活動」が3・4年生に前倒しして必修化、5・6年生では、国語や算数と同じように、成績のつく「正式教科」として、カリキュラムが組まれていくことになっています。
今回は、今まで小学校で行われていた英語教育と新しい学習指導要領では、具体的にはどのような違いがあるのか、また、その後の教育課程において考えられる影響について、詳しく取り上げてまいります。
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<目次>
「外国語活動」から、「教科化」に伴う3つの変化
1.授業時間数の変化
「外国語活動」では、コマ数も、週に一度(一コマ;45分)と設定され、内容については、どちらかというと、歌やゲームなどの遊びを通して英語に触れたり、決まった簡単な挨拶を覚えたりして、”英語を楽しむ”ことに重点が置かれています。
『外国語活動においては、音声を中心に外国語に慣れ親しませる活動を通じて、言語や文化について体験的に理解を深めるとともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成し、コミュニケーション能力の素地を養うこと』を目標に掲げています。(文部科学省の定義を抜粋)
これが、「教科化」されると、コマ数が週に二回に増え、年間で70コマを英語教育に充てる計算です。
*しかし、実質的に小学校での実施可能な授業は年間980コマと言われており、この時間を全て確保して学校の授業に組み入れるとなると、大幅に全体の授業数をオーバーしてしまうことになります。
朝の時間や昼休み、放課後などの細切れ時間を活用して、英語のための学習時間を作るように検討されてはいるものの、通常、すでにこういった時間の活動は、各小学校で色々と実施されており、新たに英語学習に割くのは難しいとされています。
筆者の個人的な感想としては、3年生から、一ヶ月に1つ2つでも、簡単な挨拶や決まった壁に貼るなどして一緒に覚えていけば、多少、この時間数のカバーはできるのではないかと考えています。
2.内容/評価方法の変化
以前、文部科学省が良い活動内容のアイディア集の形で、5・6年生に向けて<英語ノート>という補助教材を作成したことはありますが、自治体単位・学校単位で取り組む内容も自由だったため、必ずしも、これが全国で活用されていたわけではありません。
現在では、ある程度の指針を示すものとして、東京書籍の”Hi Friends”という補助教材が使われることが多いようです。内容は、5年生では、リスニングとスピーキングに重点を置き、6年生になって、文字が導入されるというものです。
しかし、こちらも、英語学校で習うことの多いフォニックスなどは、独自のカリキュラムを作成している学校や地域でないと、指導内容には含まれていません。
実態としては、今までのところ、通常授業の中で、イギリスの小学校の教材であるOxford University Pressの教材(ORT)を導入している大阪の市立19校や、オンライン英会話と提携して、一人一人の生徒に個人指導をつけている佐賀県上峰町など、特に英語教育に力を入れた取り組みをする地域もある一方、先生も、手探り状況でどうしていいかよくわからないままという学校も多く、教育の質に大きなばらつきが出てしまっている側面があります。
本格的に「必修化」した時には、この教科書的な役割を果たしている補助教材が、しばらくの間使われ続けるか、おそらく装い新たに各出版社から、全国共通の検定教科書が配布されることになるでしょう。(先進的な取り組みを行っている学校は現行の取り組みを維持するだろうと思いますが。)
また、「教科」となると、他の科目と同じく、テストがあり、成績がつけられることにもなります。
この点についても、「外国語活動」の中で、「コミュニケーション能力の育成」をとしていたところから、今後、英語力の評価へとシフトするため、誰がどのように、何をもって「評価」するのかという一律の基準も、まだはっきりとはわかりません。
現在、続々と新たなジュニア・キッズ向けの英語試験が登場してきていますが、しばらくは注意深く様子を見守っていく必要がありそうです。
3.小学校英語に関連する他の教育内容の変化
小学校での教科格上げによって、まず、すぐに反映されるのが中学入試でしょう。帰国子女枠だけでなく、通常の試験内容の一部として、英語が入ってくることになります。
小学校だけが前倒しになったわけではなく、中学校・高校の英語も英語の授業は、原則英語で行うなど、高度な理想が掲げられており、中学生の到達目標が現行の3級から準2級に引き上げられます。
英検も、より実践的な英語運用能力を測るため、着々と4技能試験へと移行しており、今年度から全級においてスピーキング試験が導入されます。さらに、近く3級以上には、ライティングも課されるようになります。
今までもそういった枠で学生を受け入れてきた大学はたくさんありましたが、大学入試も、センター試験が廃止されて、民間のTOEFL, IELTS,上智大学と英検の実施機関が共同開発したTEAPなどの試験で、英語運用力を証明する形になっていきます。
賛否両論の小学校英語改革
すでに決定され、語学力推進を目指して大きく舵を切った形の小学校での英語教育ですが、今もって根強い反対意見があるのも事実です。
反対派の意見
1.指導者確保への不安がある
現実的には、反対する側の根本原因には、教育の質の徹底・効果も魅力も兼ね備えた指導者確保への不安が一番大きいのではないかと思います。大学入学までの長いスパンで教育を考えた時、できるだけ地域差がない状態で進むようにと誰もが願っています。
ただその一方で、普段から負担の多い小学校の先生の立場からは、自分自身が改めてブラッシュアップの必要な英語を指導するのは困難だという悲鳴のような声も上がっていて、どれだけのインプットができるかが担任にかかっている状況は、望ましいとは言えません。
2.時間をどうやって確保するのか不透明
上でもお話ししましたように、英語の学習のための時間は、どう捻出するのかも大きな課題です。他の教科にかける時間を減らすことになれば、思考力が低下しないのかと懸念されています。(日本語が先だという声も時折上がりますが、週にわずか2時間の決まり文句の学習で、母語の基礎がほぼ完成している子どもたちには、実際、何の悪影響もないはずです。)
英語での授業が英語力の伸びに深い相関関係があるのは事実ですが、目標とされている英語力の到達点を達成するのには、英語が常に目にも耳にも入るようなバイリンガルな環境づくりが不可欠で、それには多大な時間と労力が必要です。そのあたりの詰めは、確かにまだまだ甘いと言わざるをえないでしょう。
賛成派の意見
1.英語力のアップにつながる
賛成派は、アジアの中でも群を抜いて低空飛行の実践的な英語運用力を何としてでも底上げし、「時代に即した教育で、言葉の壁で劣等感を持たずに国際社会で活躍できる人を育てるべきだ」という部分で、今回の改革内容をとても歓迎しています。
2.コミュニケーション能力が高まる
実際に英語活動が入るようになってから、子どもたちのコミュニケーション能力が上がり、積極的に問題解決をしようとする態度が見られるようになった、という報告もあります。
3.平等に英語を触れられる
旅行程度の英語であったとしても、義務教育だからこそ、誰もが平等に英語に触れる機会を与えられるべき、との意見もあります。
4.低年齢で英語に触れる機会を作れる
外国語との出会いは、低年齢であればあるほど、心理的な壁を感じにくく、慣れるのも早いという利点があります。
終わりに
私自身も、方向性としては決して間違っていないのですが、時間や指導者の問題など、いろいろなことが中途半端なまま取り残されているため、理想と実態の大きな隔たりを埋め、理想的な英語教育が日本中で行われるようになるまでには、まだまだ相当な道のりがあるように感じています。
ただ、政府が英語教育への姿勢を明確に示して大きな教育指針の転換をリードしていることで、改善すべき点が浮き彫りになり、いろいろな問題点が共通認識として議論されるようになったことは、大きな進歩でもあります。しばらくは過渡期で、多少の混乱は避けられないかもしれませんが、今までなかなか実行に至らなかった、日本の英語教育が新たな一歩を踏み出したことはとても喜ばしく、日本の英語教育に携わる立場として、これから上昇気流を作っていける一助になれれば、と改めて身の引き締まる思いです。